あれは忘れもしない、一人暮らしを始めて間もない頃の、夏の夜のことでした。当時住んでいたアパートは築年数が古く、一階の角部屋で、窓の外には小さな庭のようなスペースがありました。その夜、床に布団を敷いて寝ていた私は、ふと足元に何か違和感を覚えて目を覚ましました。寝ぼけ眼で足元を見ると、そこには…黒くて細長い、あの、おぞましい姿の生き物が這っていたのです。ムカデでした。しかも、10センチはあろうかという大きさ。全身の血の気が引くのを感じ、声にならない悲鳴を上げそうになりました。恐怖で体が固まってしまい、どうすることもできません。ムカデはゆっくりと私の足元から布団の上を横切り、部屋の隅へと消えていきました。その夜は、もう怖くて眠れませんでした。電気をつけたまま、布団の中で震えながら朝を待ったのを覚えています。翌日、すぐに大家さんに相談し、駆除業者を呼んでもらいましたが、その時にはもうムカデの姿はありませんでした。しかし、業者の方から、古い木造家屋は隙間が多く、ムカデが侵入しやすいこと、特に湿気の多い場所を好むことなどを教えてもらいました。私の部屋も、日当たりが悪く、少しジメジメしていたのかもしれません。その日から、私のムカデ対策が始まりました。まず、部屋中の隙間という隙間を、テープやパテで徹底的に塞ぎました。窓は常に網戸にし、それでも不安で、窓枠の周りには粉末状の忌避剤を撒きました(本当は室内には良くないのかもしれませんが、恐怖には勝てませんでした)。換気をこまめに行い、除湿剤もあちこちに置きました。部屋の隅々まで掃除し、物を床に直接置かないようにしました。そして、寝る前には必ず布団の周りをチェックするようになりました。幸い、それ以降、部屋の中でムカデに遭遇することはありませんでした。あの恐怖体験はトラウマになりましたが、同時に多くのことを学びました。まず、住環境の重要性。湿気対策や隙間対策がいかに大切かということ。そして、予防策を講じることの必要性です。遭遇してから慌てるのではなく、日頃から侵入させない、住み着かせない努力が重要なのだと痛感しました。今でも、あの時の恐怖は忘れられませんが、それをバネにして、住まいの環境管理には人一倍気を使うようになった、そんな経験でした。