静かな夜、家の壁や柱、家具などから「カリカリ」「コツコツ」といった、まるで時計が時を刻むような、あるいは小さな虫が木材をかじるような音が聞こえてきた経験はありませんか。その不思議な音の正体は、もしかしたら「死番虫(シバンムシ)」と呼ばれる小さな甲虫の仕業かもしれません。この名前は、成虫が硬い頭部を壁などに打ち付けて出す音(タッピング音)が、死にゆく人の枕元で時計が時を刻む音、すなわちデスメタル(Deathwatch)に例えられたことに由来すると言われています。少し不気味な名前ですが、彼らは実際にどのような虫なのでしょうか。シバンムシは、コウチュウ目シバンムシ科に属する昆虫の総称で、世界中に多くの種類が生息しています。日本で家屋や食品に被害を与える代表的な種類としては、「タバコシバンムシ」や「ジンサンシバンムシ」などが知られています。これらの成虫は体長2ミリから3ミリ程度の非常に小さな甲虫で、赤褐色や茶褐色をしています。形は楕円形で、コガネムシを小さくしたような姿にも見えます。彼らの食性は非常に幅広く、乾燥した植物質や動物質のものなら、ほとんど何でも食べてしまうと言っても過言ではありません。例えば、タバコシバンムシやジンサンシバンムシは、乾燥食品(小麦粉、パン粉、乾麺、香辛料、お菓子、ペットフード、漢方薬など)、畳、書籍、ドライフラワー、タバコの葉などを食害します。また、種類によっては木材を食害するものもいます。被害を与えるのは主に幼虫です。成虫が食品や木材に産卵し、孵化した幼虫がそれらを内部から食べて成長します。幼虫は白くて柔らかいイモムシ状で、暗い場所を好みます。成虫は飛ぶことができ、光に集まる習性を持つ種類もいるため、窓際などで発見されることもあります。壁の中から聞こえる音は、成虫が繁殖期に異性を呼ぶため、あるいは種類によっては木材内部にいる幼虫を刺激するために出すタッピング音であると考えられています。この音が聞こえたら、家のどこかでシバンムシが発生している可能性が高いと言えるでしょう。
壁の中から聞こえる音死番虫の仕業