田中さん(仮名・40代)は、自宅のカーポートの天井裏に、バスケットボール大のスズメバチの巣ができているのを発見しました。以前、庭でアシナガバチの巣を市販のスプレーで駆除した経験があった田中さんは、今回も自分で対処できるだろうと安易に考えました。「スズメバチ用って書いてある強力そうなスプレーを買えば大丈夫だろう」。そう思い、ホームセンターで一番強力そうに見えた「スズメバチにも効く」と表示された汎用タイプのジェット噴射スプレーを購入しました。防護服は持っていなかったため、厚手の作業着と帽子、軍手、バイク用のフルフェイスヘルメットという、自己流の装備で駆除に臨むことにしました。駆除決行は週末の夕方。脚立を使い、天井裏の巣に近づきます。スプレー缶を構え、巣穴と思われる場所に向けて噴射を開始しました。しかし、噴射して数秒後、事態は田中さんの想像を遥かに超えて悪化します。巣の中から、羽音を轟かせながら、おびただしい数のスズメバチが飛び出してきました。購入したスプレーは、確かに噴射力はありましたが、スズメバチを即座にノックダウンさせるほどの威力はなかったのです。薬剤を浴びて興奮したスズメバチたちは、一斉に田中さんに襲いかかりました。厚手の作業着の上からでも、ヘルメットのわずかな隙間からでも、容赦なく毒針が突き刺さります。激痛と恐怖に襲われた田中さんは脚立から転落。それでも蜂の攻撃は止まりません。這うようにして家の中に逃げ込みましたが、全身を何十箇所も刺されており、すでに呼吸が苦しくなり始めていました。家族の通報で救急搬送されましたが、重度のアナフィラキシーショックを起こしており、集中治療室での治療が必要となる深刻な事態となりました。幸いにも一命は取り留めましたが、退院までには長い時間を要しました。この悲劇の原因は、明らかに田中さんの判断ミスにありました。第一に、スズメバチの巣の駆除を素人が行うこと自体の危険性。第二に、不十分な防護装備。そして第三に、スズメバチに対して効果が不十分な可能性のあるスプレーを選択してしまったことです。「スズメバチにも効く」という表示だけで、専用品と同等の効果があると過信してしまったのです。この事例は、蜂の巣駆除、特にスズメバチ駆除におけるスプレー選びの重要性と、安易な自己判断がいかに危険であるかを、改めて私たちに教えてくれます。
事例研究駆除スプレー選択ミスが招いた悲劇