アシナガバチに刺されると、強い痛みや腫れが生じることはよく知られています。しかし、その危険性は局所的な症状だけにとどまりません。最も恐ろしい合併症の一つが「アナフィラキシーショック」です。これは、ハチ毒に対する過剰なアレルギー反応によって引き起こされる全身性の重篤な症状であり、迅速かつ適切な対応がなされなければ、命に関わる可能性のある非常に危険な状態です。アナフィラキシーショックは、ハチ毒が体内に入ると、免疫システムが過剰に反応し、ヒスタミンなどの化学伝達物質が大量に放出されることによって起こります。これにより、全身の血管が拡張して血圧が急激に低下したり、気道が腫れて呼吸困難になったり、意識を失ったりといった症状が、刺されてから数分から数十分という短時間のうちに出現します。具体的な症状としては、全身の蕁麻疹やかゆみ、口唇や舌、喉の腫れ、息苦しさ、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)、腹痛、嘔吐、めまい、動悸、血圧低下、意識障害などが挙げられます。これらの症状が複数、急激に現れた場合は、アナフィラキシーショックを強く疑う必要があります。特に注意が必要なのは、過去にハチ(アシナガバチを含む)に刺された経験がある人です。一度目の刺傷で体内にハチ毒に対する抗体が作られ(これを「感作」といいます)、二度目以降に刺されると、その抗体が過剰に反応してアナフィラキシーショックを引き起こすリスクが高まるのです。もちろん、初めて刺された場合でも発症する可能性はあります。もし、アシナガバチに刺された後に上記のような全身症状が現れた場合は、一刻も早く医療機関を受診する必要があります。症状の進行は非常に速いため、躊躇せずに救急車を要請することが重要です。また、過去にアナフィラキシーショックを起こしたことがある人や、そのリスクが高いと診断された人は、医師の指示のもと、アドレナリン自己注射薬(エピペンなど)を携帯し、緊急時に使用できるようにしておくことが推奨されます。アシナガバチはスズメバチに比べておとなしいイメージがあるかもしれませんが、アナフィラキシーショックを引き起こす危険性は同様に存在します。そのリスクを軽視せず、正しい知識を持つことが、万が一の際に命を守ることに繋がります。
命に関わるアシナガバチアナフィラキシー