それは、私が古い木造の一軒家に引っ越してきて間もない頃のことでした。夜、寝静まった部屋で本を読んでいると、どこからともなく「コツ、コツ、コツ…」という、規則正しい、けれど非常に小さな音が聞こえてくるのに気づきました。最初は時計の音か、あるいは家がきしむ音かと思いましたが、どうも違うようです。音は壁の中から聞こえてくるような気がします。気のせいかな?とその日はやり過ごしましたが、翌日も、その次の日も、静かになると決まってあの小さな音が聞こえてくるのです。しかも、日によって聞こえる場所が微妙に違うような気もします。「もしかして、壁の中に何かいる…?」不安になった私は、インターネットで「壁の中 音 コツコツ」といったキーワードで検索してみました。すると、いくつかの原因候補とともに、「シバンムシ(死番虫)」という、なんとも不気味な名前の虫の情報がヒットしました。シバンムシの成虫が壁などに頭を打ち付けて出す音だというのです。さらに調べてみると、シバンムシは乾燥食品や畳、木材などを食べる害虫であるとのこと。我が家は古い家だし、畳もある。それに、キッチンにはいつ買ったか分からないような古い香辛料もあったような…。もしかしたら、これが原因かもしれない!早速、家中を点検してみることにしました。まず怪しいのはキッチン。古い香辛料の瓶を確認すると、中に粉のようなものと、小さな茶色い虫の死骸を発見!おそらくこれがシバンムシの成虫でしょう。さらに、戸棚の奥にあった開封済みの乾麺の袋の中にも、同じ虫と、白い小さな幼虫がうごめいていました。原因はこれだ!と確信しました。被害のあった食品は全て処分し、キッチン周りを徹底的に掃除しました。畳の部屋も念入りに掃除機をかけ、換気を良くするように心がけました。それからしばらくは、まだあの「コツコツ」音が聞こえることがありましたが、発生源と思われる食品を処分したことで、徐々に音は聞こえなくなり、虫の姿も見かけなくなりました。あの怪音の正体が分かった時は少しゾッとしましたが、同時に原因が特定できてホッとしたのも事実です。シバンムシ対策には、食品管理と清掃がいかに重要かを思い知らされた出来事でした。