本を愛する人にとって、これほど厄介な存在はないかもしれません。ひっそりとページの間や書棚の奥に潜み、大切な蔵書を静かに蝕んでいく銀色の小さな訪問者、それが「シミ(紙魚)」です。体長1センチメートルほど、細長い体に長い触角と尾毛を持ち、銀灰色の鱗粉で覆われたその姿は、魚のようにも見え、英語では「Silverfish」と呼ばれます。彼らは非常に原始的な昆虫のグループに属し、数億年前からその姿をほとんど変えずに生き延びてきた「生きた化石」とも言われます。しかし、その歴史の古さとは裏腹に、現代の私たちの家の中では、しばしば歓迎されざる客として扱われます。シミの主食は、デンプン質や糖質、そしてセルロースです。つまり、本の紙や糊、壁紙、写真、さらには綿や麻などの天然繊維でできた衣類まで、彼らにとってのご馳走となり得るのです。本のページをかじって不規則な穴を開けたり、表面を舐めるように食べてシミのような跡を残したり、糊付けされた部分を食べて本をバラバラにしてしまったりと、その被害は多岐にわたります。特に、長期間動かさずに保管されている古い本や、湿気の多い場所に置かれた本は格好のターゲットとなります。彼らは暗く、暖かく、湿度の高い環境を好みます。本棚の奥、押し入れ、クローゼット、段ボール箱の中、壁の隙間などが主な生息場所です。夜行性のため、日中は人目につかない場所に隠れており、私たちが気づかないうちに活動していることが多いのです。シミによる被害を防ぐためには、まず彼らの好む環境を作らないことが重要です。定期的な換気や除湿によって湿度を低く保ち、こまめな清掃でホコリや餌となるものを除去します。本棚は壁から少し離して設置し、風通しを良くするのも効果的です。長期間読まない本は、密閉できる容器に防虫剤と一緒に入れて保管するのが良いでしょう。もしシミを見つけてしまった場合は、掃除機で吸い取るか、市販の殺虫剤を使用します。ただし、殺虫剤は本に影響を与える可能性もあるため、使用には注意が必要です。大切な本をシミの被害から守るためには、日頃からの地道な管理と対策が欠かせません。本への愛情があるからこそ、この小さな侵入者への警戒を怠らないようにしたいものです。
本好きの天敵紙魚と呼ばれる細長い虫