あれは忘れもしない、夏の暑い日のことでした。夕飯の支度をしようと、いつものようにキッチンの隅に置いてある米びつの蓋を開けた瞬間、私は言葉を失いました。白いお米の中に、無数の黒い点々がうごめいていたのです。最初は米ぬかか何かのゴミかと思いましたが、よく見るとそれは紛れもなく虫でした。体長3ミリほどの、象の鼻のような口を持った、あの憎き「コクゾウムシ」です。しかも、一匹や二匹ではありません。ざっと見ただけでも数十匹、いや、もしかしたら百匹以上いたかもしれません。米粒に小さな穴が開いているものも多数あり、彼らがすでに我が家の米びつを完全に支配していることを物語っていました。「ぎゃーっ!」思わず短い悲鳴を上げ、反射的に蓋を閉めました。心臓がバクバクと音を立て、全身に鳥肌が立ちました。数日前に米を研いだ時には、全く気づかなかったのに。この短期間に、一体何が起こったというのでしょうか。とにかく、このお米はもう食べられない。そう判断し、重い米びつを抱えて外のゴミ捨て場へ直行しました。しかし、問題はそれで終わりではありませんでした。米びつを空にしても、キッチンの中にはまだ生き残りがいるかもしれない。そう思うと、いてもたってもいられなくなりました。米びつが置いてあった周辺を徹底的に掃除し、床や壁も念入りに拭き上げました。戸棚の中にあった他の乾物もチェックしましたが、幸いそちらには被害は及んでいないようでした。原因は何だったのか。おそらく、購入したお米に最初から卵か幼虫が紛れ込んでいたのでしょう。そして、夏の高い気温が彼らの繁殖を後押ししたのだと思います。米びつも、昔ながらの蓋がパカッと開くタイプで、密閉性が低かったのも良くなかったのかもしれません。この苦い経験を経て、私は米の保存方法を根本から見直すことにしました。新しい米びつは密閉性の高いものを選び、さらに唐辛子や専用の防虫剤を入れるようにしました。そして、お米は少量ずつ購入し、なるべく早く使い切ることを心掛けています。あの日の恐怖はもう二度と味わいたくありません。米びつを開けるたびに、一瞬ドキッとしてしまうのは、きっと私だけではないはずです。