蜂駆除の専門家として長年活動していると、「たった一匹のスズメバチを見かけただけなのですが、大丈夫でしょうか?」というご相談を非常によく受けます。多くの方は、一匹だけなら大きな問題にはならないだろうと考えがちですが、私たちプロの視点から見ると、その一匹は非常に重要な警告サインである可能性が高いのです。春先に現れる一匹のスズメバチは、越冬を終えた女王蜂であることがほとんどです。彼女たちは、これから始まる一大プロジェクト、つまり新しい巣を作り、一大コロニーを築き上げるための最適な場所を探して飛び回っています。この段階で家の軒下や天井裏、庭木などに目星をつけられてしまうと、数週間後には初期の巣が完成し、働き蜂が生まれ始めます。夏以降に見かける一匹は、多くが働き蜂です。餌を探しているだけの場合もありますが、巣の場所を偵察していたり、分蜂(巣分かれ)のための新しい営巣場所を探していたりする可能性も十分に考えられます。特に、同じ場所を何度も旋回したり、建物の隙間を出入りしたりするような行動が見られたら、ほぼ間違いなく近くに巣が存在するか、これから作られようとしています。なぜ、私たちは「たかが一匹」を見逃してはいけないと強調するのでしょうか。それは、巣が初期段階であればあるほど、安全かつ比較的低コストで駆除が可能だからです。女王蜂一匹、あるいは働き蜂が数匹程度の巣であれば、駆除作業に伴うリスクも少なく、時間もそれほどかかりません。しかし、これを放置し、巣が大きくなってしまうと、働き蜂の数は数百、時には千を超える規模になります。そうなると、巣に近づくだけで非常に危険であり、駆除作業も大掛かりで専門的な装備と技術が必要となり、費用も高額になります。何よりも、住民の方々が刺されるリスクが格段に高まってしまうのです。ですから、もし家の周りでスズメバチが一匹でもウロウロしているのを見かけたら、「たかが一匹」と安易に考えず、まずはその行動を注意深く観察してください。そして、少しでも巣作りや偵察の疑いがあると感じたら、迷わず私たちのような専門業者にご相談いただきたいのです。早期発見、早期対処こそが、スズメバチ被害を最小限に抑えるための最も有効な手段なのです。皆様の安全を守るためにも、その一匹のサインを見逃さないでください。