わしら庭師にとって、ハチとの遭遇は日常茶飯事だ。特にアシナガバチは、庭木の枝葉の間や軒下なんかに、いつの間にか巣を作っていることが多いからな。まあ、大抵はお互い干渉せずに済むんだが、時にはヒヤリとさせられることもある。アシナガバチはスズメバチに比べりゃ確かにおとなしい。こちらが静かに作業していれば、近くにいても向こうから攻撃してくることは滅多にない。だが、それはあくまで「平時」の話だ。奴らも自分の巣と仲間を守るためなら、途端に獰猛になる。一番怖いのは、剪定作業中に気づかずに巣のある枝を揺らしてしまうことだ。脚立に登って、茂った葉の中に手を入れた瞬間、ブンッという羽音と共に数匹のアシナガバチが飛び出してきて、慌てて飛び降りた経験は一度や二度じゃない。幸い、今まで大事には至っていないが、一歩間違えれば集中攻撃を受けていたかもしれないと思うと、今でも背筋が寒くなる。以前、一緒に仕事をしていた若い衆が、まさにそれで刺されたことがある。マキの木の生け垣を刈り込んでいる最中に、中にあった巣をバリカンで引っ掛けてしまったんだ。あっという間に数カ所刺されて、腕がパンパンに腫れ上がってしまった。幸いアナフィラキシーは起こさなかったが、痛みと痒みで数日は仕事にならなかったな。あれを見てから、わしも作業に入る前には、まず木の周りをよく観察して、ハチが頻繁に出入りしていないか確認するようになった。特に夏場の茂った木や、雨戸の戸袋、軒下なんかは要注意だ。お客さんの家の庭っていうのは、生活空間そのものだからな。そこにアシナガバチの巣があるってことは、住んでいる人にとっても常に危険が隣り合わせだってことだ。子供がボール遊びをしていて巣を刺激したり、お年寄りが知らずに近づいて刺されたりする可能性もある。だから、もし作業中に巣を見つけたら、必ずお客さんに報告して、どうするか相談するようにしている。自分で駆除できる大きさならやることもあるが、大きかったり場所が悪かったりしたら、無理せず専門業者を勧める。アシナガバチは身近な存在だが、その危険性を軽く見てはいけない。庭師として、安全に仕事をするためにも、そしてお客さんの安全を守るためにも、常に警戒心を持って接するようにしているよ。