忘れもしない、あれは梅雨入り間近のある夜のことでした。寝る前に読書でもしようかと、本棚の奥から久しぶりに取り出した小説。パラパラとめくっていると、ページの隙間から銀色に光る何かがササッと這い出てきたのです。体長1センチほどの、細長く、触角のようなものが付いた虫。瞬間的に「うわっ」と声を上げ、本を放り出してしまいました。それが、私と「シミ(紙魚)」との初めての遭遇でした。それまで名前は聞いたことがありましたが、実物を見たのは初めて。なんだか原始的な姿と、予想外の素早さに、軽い恐怖を覚えました。その日から、私は家の中の「細長い何か」の存在を妙に意識するようになってしまったのです。本棚の整理はもちろん、押し入れの中やクローゼットの隅、段ボールが置いてある場所などを念入りにチェックするようになりました。すると、いるわいるわ。特に、長年開けていなかったダンボール箱の底や、古い雑誌の間などに、彼らの潜んでいる痕跡や、時には本体そのものを見つけることがありました。幸い、シミは人に直接的な害を与える虫ではないと知り、少し安心はしましたが、それでも本や衣類が食べられるのは困ります。何より、家の中に得体の知れない虫がいるという事実が精神的に落ち着きませんでした。そこで、私なりのささやかな戦いが始まりました。まずは、彼らの餌となる紙類やホコリを減らすため、徹底的な掃除と整理整頓を敢行。不要な本や書類、ダンボールは思い切って処分しました。次に、彼らが好む湿気を減らすため、除湿剤を設置したり、天気の良い日には押し入れやクローゼットの扉を開けて換気したりするよう心がけました。市販の殺虫剤も試しましたが、あまり根本的な解決にはならない気がして、忌避効果があると言われるハーブ(ラベンダーなど)の匂い袋を置いてみたりもしました。完全にいなくなったとは言えませんが、以前に比べて遭遇頻度は格段に減ったように感じます。あの夜の遭遇は衝撃的でしたが、結果的に家の中を見直し、清潔に保つきっかけになったのかもしれません。今でも時々、本のページをめくる瞬間や、押し入れの奥を覗く時には、少しだけドキドキしてしまいますが。
細長い虫との遭遇私のひそかな戦い