田中さんが暮らす築15年ほどの賃貸アパートで、ある夏、異変が起きました。2階の角部屋に住む田中さんの部屋のキッチンに、どこからともなく小さな黒い蟻が頻繁に出没するようになったのです。最初は数匹程度だったため、市販の殺虫剤で対応していましたが、次第にその数は増え、行列を作るようになりました。田中さんは、自分の部屋の清掃や食品管理には気を使っていたため、発生原因が自分の部屋だけにあるとは思えませんでした。そこで、隣の部屋の住人や、階下の住人にも話を聞いてみると、同様に蟻の被害に悩んでいることが判明しました。特に、1階のゴミ置き場に近い部屋や、庭に面した部屋で被害が大きいようでした。これは個人の問題ではなく、建物全体の問題かもしれないと考えた田中さんは、アパートの管理会社に状況を報告し、対策を相談することにしました。連絡を受けた管理会社の担当者は、すぐに状況を確認し、他の住民からも聞き取り調査を行いました。その結果、アパートの複数の部屋で蟻の発生が確認され、特に建物の基礎部分のひび割れや、配管周りの隙間などが共通の侵入経路となっている可能性が浮上しました。管理会社は、専門の害虫駆除業者に建物全体の調査と駆除を依頼することを決定。業者による調査の結果、アパートの敷地内の植え込みに蟻の巣があり、そこから建物の隙間を通って各部屋に侵入していることが判明しました。駆除計画として、まず屋外の巣の駆除と、建物基礎周りへの薬剤散布が行われました。次に、各住戸に対しては、ベイト剤(毒餌剤)が配布され、住民自身が室内の蟻の通り道などに設置するよう協力が求められました。同時に、管理会社は、侵入経路となっていた建物のひび割れや隙間を修繕する工事も実施しました。これらの対策が功を奏し、数週間後には、アパート全体で蟻の発生は大幅に減少し、住民たちの悩みは解消されました。この事例は、集合住宅における蟻問題は、個々の住民が対策を行うだけでは限界があり、住民同士の情報共有と、管理会社や大家さんとの連携、そして建物全体での専門的な対策が不可欠であることを示しています。もし集合住宅で蟻の被害に悩んでいる場合は、一人で抱え込まず、まずは管理会社や大家さんに相談することが解決への第一歩となるでしょう。