山田さん一家が暮らす郊外の一軒家。その年の初夏、主人の山田さんは、家の軒下あたりを一匹のスズメバチがウロウロしているのを何度か見かけていました。「まあ、一匹くらいなら大丈夫だろう。そのうちいなくなるさ」。彼はそう軽く考え、特に気にも留めていませんでした。日々の忙しさにかまけて、そのスズメバチのことはすっかり忘れてしまっていたのです。夏休みに入り、子供たちが庭で遊ぶ時間が増えました。蝉の声が響き渡る暑い午後、庭でボール遊びをしていた長男が、突然「痛い!」と叫び声を上げました。駆けつけた山田さんが見たのは、腕を押さえて泣きじゃくる長男と、その周りを数匹のスズメバチが飛び交う光景でした。慌てて長男を家の中に避難させ、窓から外を見ると、軒下にバスケットボールほどの大きさになったスズメバチの巣ができていたのです。初夏に見かけたあの一匹は、巣を作る場所を探していた女王蜂だったのでしょう。山田さんが気づかないうちに、巣は着実に大きくなり、働き蜂の数も増えていたのです。幸い、長男はすぐに病院で手当てを受け、大事には至りませんでしたが、腕はひどく腫れ上がり、数日間は痛みに苦しみました。そして、家族全員が、いつまた蜂に襲われるかと怯える日々を送ることになりました。結局、専門の駆除業者に依頼し、多額の費用をかけて巣を撤去してもらいましたが、山田さんは「あの時、一匹のスズメバチを見かけた時点で対処していれば…」と深く後悔しました。この事例は、たった一匹のスズメバチであっても、それが巣作りの兆候である可能性を軽視してはいけないという教訓を示しています。特に春から初夏にかけて、同じ場所で繰り返しスズメバチを見かける場合は要注意です。巣が小さいうちに対処すれば、費用もリスクも比較的少なく済みます。しかし、放置して巣が大きくなってしまうと、駆除費用がかさむだけでなく、刺される危険性も格段に高まります。山田さん一家のような経験をしないためにも、家の周りでスズメバチを見かけたら、その行動を注意深く観察し、少しでも不安を感じたら早めに専門家に相談することが賢明な判断と言えるでしょう。油断が大きな危険を招くことを、決して忘れてはなりません。