普段、私たちが目にする蟻の行列。それは単なる虫の集まりではなく、高度に組織化された社会行動の一端です。彼らの生態、特にコミュニケーション方法や集団行動の仕組みを理解することは、より効果的な蟻対策を考える上で重要なヒントを与えてくれます。蟻の社会行動の根幹をなすのが、フェロモンと呼ばれる化学物質を用いたコミュニケーションです。中でも有名なのが「道しるべフェロモン」。餌を見つけた働き蟻は、巣に戻る際にこのフェロモンを地面に付けながら歩きます。他の蟻はこの匂いを辿ることで、効率的に餌場まで到達できるのです。餌が豊富であればあるほど、多くの蟻がこの道を利用し、フェロモンを上塗りしていくため、道しるべはより強固なものとなり、私たちが目にする明確な「蟻道(ぎどう)」が形成されます。この仕組みを理解すると、蟻対策における「行列を断つ」ことの重要性が見えてきます。単純に行列の途中に殺虫スプレーを撒くだけでは、一時的に蟻を殺すことはできても、フェロモンの道が残っている限り、別の蟻がまた同じ道を辿ってくる可能性があります。行列を見つけたら、その根元、つまり侵入経路や巣の入り口を探し出し、そこを重点的に対策することが効果的です。また、拭き掃除などでフェロモンの道を物理的に消してしまうことも、一時的ではありますが、行列を混乱させるのに役立ちます。さらに、ベイト剤(毒餌剤)が巣ごと駆除に有効な理由も、彼らの社会行動と関連しています。ベイト剤は、働き蟻が餌と認識して巣に持ち帰り、女王蟻や幼虫、他の働き蟻と分け合う(栄養交換)習性を利用しています。遅効性の殺虫成分が巣全体に行き渡ることで、直接ベイト剤を食べていない個体も駆除できるのです。この「巣に持ち帰らせる」という点が、ベイト剤戦略の核心と言えます。一方で、蟻は危険を察知すると「警報フェロモン」を発し、仲間に危険を知らせ、時には集団で攻撃してくることもあります。そのため、むやみに巣を刺激したり、蟻を追い詰めたりするような駆除方法は避けるべきです。蟻の社会は、分業体制も確立されています。女王蟻は産卵に専念し、働き蟻は餌集め、巣作り、育児、防衛など、様々な役割を担っています。この高度な社会システムが、彼らの繁栄を支えているのです。
蟻の社会行動と効果的な対策のヒント